アサーション

 

「○○とうまくコミュニケーションがとれるようになるには、どうしたらいいのでしょう」

相談の入口はどうあれ、ほとんどの問題はここに集約されてきます。

 

 そしていくつか提案すると、

 

「それはとても大変なことですね。」

「そんなこと面倒ですよ。」

「なぜ、私がそこまでしなくてはいけないんでしょうか。」

「私は、そういうことができるタイプではないんで・・・。」

 

相談者の準備ができていないとき、あるいは準備はできているけど本人に意思がないとき、よく上記のような言葉が返ってくることがあります。

 

「変えられることを変える勇気、

 変えられないことを受け入れる平静な心、

 そして、それらを見分ける知恵を与えたまえ」

 (ラインホールド・ニーバー)

 

「自分」という存在を見つめ直したとき、この言葉が原点となります。日常の人間関係の中で、私たちは「変える勇気がない」か「変えられないことを受け入れられない」か、あるいは、「それが、変えられることなのか変えられないことなのか、わからないでいる」かが搖れる境となっています。その境を実感したり、あるいはそれを乗り越える実行手段として、コミュニケーションの実践があります。

 

 そのひとつとして、スムーズに「コミュニケーション」を進める「アサーション」という概念があります。

 アサーションとは、簡単に言えば、自分と他人の違いを認め、気持ちのいいコミュニケーションを実現する、考え方や方法のことです。

 

■ アサーションのないコミュニケーション

       なぜ、うまく伝わらないの?

 

[解説]

 

1. 「夏が来た」という事実に対して、2人の持ってる枠組みは、大きく違います。別にこの2人が特別なわけではなく、大なり小なり私たちは、皆違う捉え方である事実を「自分なりの事実」として捉えています。

 そしてそこには、その人独自の「物語り」(経験・生育・気質・人生観)があるのです。しかし往々にして私たちは、勝手にその物語は一緒だと、決めてしまう傾向があります。

 

2. そして「やっつけタイプ」は、自分を優先する傾向が強いので、相手の様子もおかまいなしに自己主張します。

 そして、「ためるタイプ」は相手を優先するので、違和感を感じても、素直に自分の気持ちを伝えることができません。質問系で返したり、黙ってしまったりと、あいまいでわかりにくい表現をすることがよくあります。

 それは、相手を配慮した思いやりではなく、伝えることで相手がどんな反応を示すか怖いので、それを避けているだけなのです。「何となくわかってよぉ」という甘えや、「こんなことわかってもらえるはずないわ」という諦めがあるのです。

 

3. そして「やっつけタイプ」は、相手の微妙な様子に気がついていなくても、それより「自分をわかってもらおう」とすることを優先します。少々強引でもそれをわからせようという信念があるからです。ましてや、相手が質問系であいまいな態度なのですから、はっきりと質問に答えながらたたみかけます。

 当然「ためるタイプ」は、相手の強引さ、熱心さに押されて、自分の気持ちは適当に収めて、相手のペースを優先します。その方が、彼女にとって楽だからです。

 

4. しかし、どちらかに無理があれば、そのコミュニケーションや関係が長続きするわけはないのです。遅かれ早かれ、不快な空気が流れます。

 そのとき、「やっつけタイプ」は、怒りをあらわにし、相手を批判、侮辱します。「ためるタイプ」も怒るのですが、それを相手にぶつけるというより、悶々と恨んだり、言い訳したり、自分自身を責めたり、ダメ出ししたりします。

 

5. そんな不快なやりとりの後、「やっつけタイプ」は、勝ち負け理論にこだわるため、また例え後悔しても強がりながら、孤独感を感じます。そして強気を装っているのに、愛情に飢えている状態になるのです。

 そして、「ためるタイプ」は、自ら相手に服従することを選んだにもかかわらず、相手を恨み、相手に批判された自分の劣等感と自信喪失にさいなまれ、ビクビクした緊張状態になるのです。

 

 

■ アサーションのできているコミュニケーション

     「やっつけタイプ」のアサーション

 

[解説]

 

1. 一方的に自分を優先して先走るのではなく、まずは相手の様子を見る余裕を持ちましょう。言葉だけでなく、見た目、聞こえてくるもの、雰囲気などで、いろんなことが伝わってくるはずです。

 

2.自分の主張を一瞬置いておいても、なくなったりはしません。少しの間でも、相手に関心を持ってみましょう。

 質問するときは、「なぜ?なぜ?」は責められる感じがするので、WhyよりHowやWhatつまり、「どんな風に~?」「何が~させるの?」と言う方が相手が自由に答えられます。

 何より、相手の世界観や枠組みを知ろうとする間を持つことが大切です。

 

3. 「やっつけタイプ」の人は、どうしても早く自分の主張を通さないといけないという衝動にかられがちです。急がなくても、コミュニケーションは勝ち負けではないのです。また、自分にも自己主張の自由と権利があるように、相手にも自己主張の自由と権利があります。あなたの質問に「言いたくない」と答えるのも、相手の権利です。これを受け取れることが"Ⅰam ok,You are ok”です。アサーションです。

 

4. まずは、受け取った相手の枠組みを理解できたことを伝えましょう。同意するしないではなく、「あなたの言い分はこういうことなのですね。」という理解です。その上で、自分の主張をどうするのか、どう伝えるのか、自分なりに自分の中で交渉してみましょう。これは、自分の中のアサーション処理です。ここは大切なところです。なぜなら、自分の「責任」において判断するところだからです。

 「自分も思いつきだったし、こんなことで煩わさせても迷惑だから、言わないでおこう」と思えば、自己主張はしない。「それでも、彼女と一緒に行きたいという気持ちだけは伝えるだけは伝えたい」と思えば自己主張すればいい。結果、どのような反応が返ってきても、相手のせいにするのではなく、自分の責任でその結果を受け入れることです。なぜなら、相手がどう対応するかは、相手に権利があるからです。

 

5. 相手の反応と自分の意思如何で、さらにコミュニケーションは続行可能なものです。

 話し合いや傾聴を続け、お互いが共存し合える世界を築こうとすることが、アサーションです。

    

      「ためるタイプ」のアサーション

 

[解説]

 

1. 「ためるタイプ」の人は、自分でも意識しないうちに相手に合わせてしまいます。「今、自分はどんな気分なのか、何を考えているのか」自分に焦点をあてて自覚することが大切です。

 

2. 自分の気持ちに焦点が定まっていなければ、相手本位にあいまいな反応をしがちなのが「ためるタイプ」の人です。適当に答えず、本当の自分の気持ちや考えを「私」を主語にして、明確に伝えることです。

 

3. それでも、分かってほしい気持ちを無視されて一方的に自己主張されると、どうしても遠慮して自分を引っ込めたくなるのが常です。もちろん、そこで相手の主張に同意するのもしないのも、あなたのアサーションです。しかし、安易に合わせず、再度、自分に問いかけてほしいのです。「本当にいいの?」と。そして、やっぱりきちんと自分の気持ちはわかってほしいと思ったら、2の表現に加えてその気持ちになる理由を簡潔に付け加えて再度伝えてみましょう。(※Ⅰ message)

 ほとんどの場合、相手はあなたの枠組みがわからず、「何でそんな気持ちになるのか、よくわからない」と、伝わらないことが多いものです。「私は○○だから(影響を受けるから)、△△な気持ちになるの」と言えば、判断は相手に任せているわけですから、気分を損なうことはありません。たいてい人は、他者から指図されるとムッとするものです。

 

4. ここまで、伝えたら、相手も少しは、反応が変わってくるものです。しかし、変わっても変わらなくても、それも相手の権利ですから、相手がどう反応しても相手の自由です。

 ただ、ここであなたが、どうしてもNОなら、それを伝えることはあなたの大切な権利です。”You are ok”だけでなく、”Ⅰ am

ok”なのですからNOを伝える私もOKです。

 「ためるタイプ」の人は、ここで相手を優先するがために、「嫌われるから~」「雰囲気が悪くなるから~」「迷惑かけるから~」と言わないことを選びがちです。結局は、あいまいな対応で、相手に判断を任せることになり、その結末に味わう自分の気分も相手の責任にしてしまうのです。自分の気持ちや考えは全部自分のものであり、自分の責任です。ですからここで、どういう対応をするのか、自分の本当の気持ちとしっかり話し合い、アサーションすることが大事です。

 また、相手の行為に対して、この部分はNOだけど、この部分はYesということもあります。NOに合わせて、Yesの部分も伝えることも、アサーションです。

 

5. 話し合いは、今回のコミュニケーションで妥協点が見つけられなくても、例え相手が不機嫌になっても、自分さえ諦めなければ、コミュニケーションや関係は続けることができます。今回は別々の世界を歩むことになったけど、お互い頑張ろうね。またいつかね。そんな関係もアサーションだからできることです。

 

※Ⅰ message⇒私(主語)+影響を受ける事実(その気持ちになった理由)+気持ち