よく耳にする心の病
近年、テレビコマーシャルなどで『うつ病=心の風邪』と表現されるほど、心の病への認知がメディアを通して浸透しつつあります。
しかしながら現状は、病の存在が多くの人に知られていても、実際にうつ病の方と関わる際、どのように対応すればいいのかわからず、うつ症状を示すご本人だけではなく、家族や恋人、会社の同僚など身近な方がカウンセリングに訪れることも多くあるそうです。
しかも、一言に「うつ病」といっても症状は様々で、人によって大きな違いがあります。また、うつ病だけでなく、神経症や心身症、人格障害、薬物・アルコール依存症など、心の病には色々な種類があります。
そこで最近よく耳にする『うつ病』『パニック障害』『摂食障害』についての知識を深めていきましょう。
① うつ病ってどんな病気?
心の風邪と言われるうつ病とは、一体どんな病気なのでしょうか?
症状を想像してみると、「元気が出ない」「落ち込んでしまう」「やる気がでない」など、何となく大まかな症状は思い浮かぶと思いますが、これらの症状は、うつ病を抱えていない人にも見られることですよね。
そのため、「怠けているだけだ!」とか「やる気を出せ!」などの心無い言葉を、本当に苦しんでいる人に対して掛けてしまう人が数多くいるのです。
このような状態を防ぐためには、うつ病に対する正しい理解が必要になります。間違った対応を少しでも減らし、うつ病に悩む方が復帰しやすい環境を作るためにも、うつ病に対して正しい知識を身に付けていきましょう。
まず、うつ病の『身体症状』とは、以下の症状が代表的です。
〈身体症状〉
*急激な体重低下 *食欲が出ない
*疲れやすい *性欲の低下
*息切れ(息苦しさ)*口の渇き
*よく眠れない *体のだるさ
これらの症状を見てみると、日常生活が忙しくてストレスが溜まっていたり、風邪を引いて体調を崩したときに出る症状と似ていることに気が付きます。
急激な体重低下が見られたりすると、周りが気が付いてくれるため分かりやすいのですが、体のだるさや疲れやすさだけでは、症状を示す本人でさえ見過ごしてしまうことがあります。
では、身体症状の次にうつ病の『精神症状』を学んでいきましょう。
うつ病で見られる精神症状は、以下のとおりです。
〈精神症状〉
*やる気が起きない *イライラする
*自分を責めてしまう *何をやるにも面倒
*興味・関心の低下 *集中力の低下
*自殺したい *自分が重たい
これらの症状を見てみると、心の中のことなのでカウンセリングだけで対応できそうにも思えますが、「自殺したい」という訴えがあるときには、より慎重な対応が必要ですし、医療機関との連携も必要になってきます。
これらの症状が、1ヶ月以上続くときには、うつ病の可能性がかなり高いので、専門機関(病院・クリニック)へ相談に行くように勧めましょう。
Column
うつ病になりやすい性格?
うつ病の病前性格として、『メランコリー親和型性格』が注目されています。
このメランコリー親和型性格とは、几帳面で完全主義という、自分に妥協を許さない性格のことで、人に対して過剰に気配りをする傾向がみられます。
この性格の特徴をみると、自分に厳しく、思いやりのある素直な人という感じがしますが、自分の心が安らげる居場所を上手に作れないことが、この性格の特徴です。
時には、自分を厳しく律することも大切ですが、自分で自分の居場所を奪うような思考を持ち続けてしまうと、誰だって苦しくなります。
自分の性格が、メランコリー親和型の特徴を持ってないか見つめてみましょう。
② パニック障害って何?
突然ですが、極度に緊張する場面を思い浮かべてみてください。
大勢の前でスピーチをする時や大切な試験を受ける時、好きな相手に告白する時...。
そして、あまり思い出したくはありませんが、誰かに怒られている時など、私たちは様々な緊張場面を経験して、現在に至っています。
しかし、そんな緊張場面で大きな失敗をしてしまい、頭で冷静に対処できなくなったら、あなたはどうなってしまいますか...?
こんな時、多くの人は、『パニック状態』に陥ってしまいます。何をすれば良いのかわからず右往左往してしまい、変な汗まで出てくる状況に陥ってしまった経験は、誰にでも一度はあるのではないでしょうか?
こんなパニック状態が、一日に何度も起こる様子を想像してみて下さい...。
相当のストレスを感じますよね。
この状態が、『パニック障害』を抱える人々の苦しみです。
パニック障害では、呼吸困難やめまい感、吐き気、立ちくらみなどの身体症状と共に、「自分は死んでしまうのではないか?」というような、死の恐怖を強く感じるなどの絶えられない苦痛感情が生じてきます。
しかも、この症状は、何の前ぶれもなく突然やってくるので、「また、発作が起きたらどうしよう...」という、『予期不安』まで強く抱くようになります。
この予期不安が生じてくると、次第に悪循環へと陥ってしまい、不安な状況から抜け出せなくなるのです。
このような過程で、不安や恐怖心が次第に高まり、悪循環に陥ります。身体的症状も強く現れることから、パニック発作への恐怖心はかなり高くなり、悲観的な感情に支配されてしまいます。
この感情が『死』への恐怖と結びつき、苦しみは増大していくのです。
また、パニック発作を経験すると、予期不安の高まりから公共の場を避ける『広場恐怖』を伴うことが多くあります。
誰だって、怖い状況からは逃れたいですし、そんな状況は避けて通りたいと思います。
このような人にとって避けるという当たり前の行動(回避行動)が習慣化されてしまうと、外に出ることが難しくなったり、遠出をしたくても車や電車に乗ることが出来ないなど、実生活で様々な制限を、自ら作り出してしまうことになるのです。
このような苦しみを抱えた方や症状が続くときには、うつ病と同様、まずは専門機関(病院・クリニック)へ相談に行くようにお勧めします。
注意!~うつ病・パニック障害~
パニック障害に陥った人の約半数以上が、うつ症状を示すと言われています。予期不安が高まり、『死んでしまうのではないか...』という強い不安に突きつけられるわけですから、落ち込んだり、意欲が低下するなどのうつ症状が見られるのは、自然な反応とも考えられます。
パニック障害を抱えた人は『発作が起きるかもしれない...』という予期不安に苛まれ、自分のことばかりに関心が集まり、周りのとこを冷静に考える余裕がなくなってしまいます。
パニック障害の苦しみを理解すると共に、うつ症状も併発する可能性があること、しっかりと理解しておきましょう!
③ 摂食障害を正しくしろう!
『拒食症』や『過食症』という言葉は、テレビドラマなどの影響で広く知られるようになってきました。
これら2つは、摂食(食物を摂ること)に障害が現れるため、『摂食障害』と呼ばれています。
ダイエットがきっかけになったり、女性に多い障害であることは多くの人に知られていますが、この障害が具体的にどのような症状を示すのか、詳しく知られていないのが現状です。
ここでは、『摂食障害』の正しい知識や症状についての理解を深めていきましょう。
1)拒食症(神経性無食欲症)
拒食症とは、食べることを拒否し、体重減少に異常な執着を見せます。
周囲から見れば「痩せすぎ...」と感じるほどであっても、体重が増加することに恐怖を感じ、低体重を維持しようとします。
むちゃ食いや指を口に入れて嘔吐する自己誘発性嘔吐、下痢などによる排出行動が見られる場合を『むちゃ食い・排出型』と言います。
一方、これらの行動が見られず、食べないことによって低体重をキープしようとする場合を『制限型』と言います。
痩せている状態で、軽い躁状態を示すこともあり、『自分は病気ではない』と強く訴えられることも多くあります。
生理が止まるようになり、本人も不安を感じて、産婦人科の受診を経て精神科医へたどり着く事が多く、自分が病気であるという意識が低いことが特徴です。
2)過食症(神経性大食症)
過食症とは、むちゃ食いの傾向が多く見られる、摂食行動の異常のことです。
つまみ食いなどちょっとしたことがきっかけで、突然発症することがあります。このような自分の行動に驚き、指を喉の奥に突っ込み無理矢理嘔吐したり、食べてしまったものを外に出すために下剤を大量に服薬し、体重を減らそうとすることもあります。
排出行動が見られる場合は『排出型』と言い、このような行動が見られない場合は『非排出型』と言います。
過食症に悩む方は、「痩せたいのに食べてしまう...」という自分に、情けなさを感じ、自己嫌悪の感情を強く抱いてしまいます。
摂食障害は、男性に比べると女性に多く見られる障害ですが、男性にも見られることはあります。病因論として、身体像の歪みや成熟拒否説、女性化の拒否説など様々ですが、まだまだ検討されている段階です。
摂食障害を発症しやすい性格特徴は、真面目で負けず嫌いな完璧主義傾向が見られ、几帳面な傾向が示唆されています。また、家族間での葛藤が見られることも多く、良い家庭像を保とうとする傾向も強いことが指摘されています。
摂食障害は、長期の栄養失調状態による無月経や低血圧、体毛の密生化、肝臓・胃腸・腎臓の異常など、身体的にも大きな影響を与えます。『拒食症はよくある話...』と安易に考えるのではなく、死亡することもある、深刻な病であることを理解しておかなければなりません。
摂食障害の恐れのある方と出会った時には、うつ病やパニック障害と同様、専門機関(病院・クリニック)へ相談に行くように勧めましょう。