インナーチャイルド・セラピー
「今ここ」での事実に気づくことの大切さや過去の出来事であっても、その感情や思考が今も続いているものであるならば、それは「今ここ」の問題として「未完の完結」が必要であることを学びました。
インナーチャイルド・セラピーは、まさにこの「未完の完結」作業を応用したものです。
アダルトチルドレン(大人になっても子どものときに受けた傷や過剰な信念を抱えていて、それが原因で今も生きづらさを抱えている人)を思い出してみましょう。
こころの中に、傷ついて泣いている子どものこころが、今もあのときのまま泣き続けている「インナーチャイルド」が残っている人です。
これが特殊なことではなく、誰もが大なり小なり抱えている傷なのだということも自覚されたことと思います。
過去のインナーチャイルドが解放されることなく、今の自分を縛っているかということに気づくことができれば、「今ここ」で縛りを解くのも、解かないのも、自分の決断しだいということです。つまり過去の未完(中途半端なままの)状態をそのまま引きずるのではなく、「今ここ」で完結(終わらせ、創り直す)ことが、インナーチャイルド・セラピーです。
■ インナーチャイルド・セラピーの流れ
このことを、時間軸で、まとめてみました。
現在の自分の様々な問題に翻弄されていても、これは氷山の一角です。だから、その問題を引っ張って来るその「信念や行動」を身につけた、「過去を吟味」します。
そして、改めて現在に戻り、今の自分はどうしたいのか、見つめ直します。そして、過去の自分の縛りを自分で手放し、本当の自分を取り戻し、理想の未来を自分の自由と責任で選択するのです。
過去(過去を吟味)
自分はどんな家族(環境)で育ったのか。
身につけたシバリは何か。
⇩
現在(現在を吟味)
幼少期から現在まで持ち続けている → 自分の中に
シバリは何か。 取り込んだ
(禁止令など) 信念に挑む。
⇩
未来(今から先どう生きていくか)
シバリを手放し、新しい
ライフスタイルを学ぶ。
これをインナーチャイルド・セラピー=アダルト・チルドレンの解放に結びつけると、以下のようになります。
■ インナーチャイルド・セラピーの5ステップ
まず①安全な場所を確保します。
それは、ありのままの感情を吐露でき、肯定も否定もされず受け入れ、共有してくれる場所ということです。
② ACであるという自覚
インナーチャイルドの存在に気づく
⇩
インナーチャイルドに会いに行く
解説②
大人としての解釈や善悪はさておき、子どものころの自分の親や重要な大人との関係の中で身につけた強い「信念」やその信念を実現するための「行動」があるかどうかチェックします。
例えば、仕事や家庭で忙しそうな母の姿を見て母が安心するから、しっかり者の良い子に振舞っていた子ども⇒寂しいと言って迷惑をかけてはいけない、簡単に人に頼ってはいけない、などの信念を持つようになる⇒そして大人になってからは、仕事も家庭も完璧にこなそうと無理をして引き受け、その行為が認めてもらえないと腹が立ったり、虚しくなる。
これは、しっかり者の、頑張り屋さんによくあるアダルトチルドレンです。つまり、今も昔も良い子を演じ続けているわけです。それらが今の自分を苦しめる要素である場合、それは、インナーチャイルドを抱えたままの、アダルトチルドレンであると自覚する必要があります。
つまり、②アダルトチルドレンであることに気づくことが最初の大きなステップです。
③ 嘆きの仕事
インナーチャイルドの本当の感情を吐き出す
解説③
その後、安心できる人や場所の中で、子どものころ抑えてきた本当の気持ちを充分吐き出します。これが「嘆きの作業」です。
なぜ、①安全な場所が必要かというと、誰に気を遣うわけでもなく、全てを受け入れてもらえる空間の中でないと、この作業が充分に成就できないからです。今まで言えなかったこと、出せなかった感情、できなかった行動を「今ここ」で吐き出すのです。
少しでも、親の立場をかばったり、しょうがないことだとか、もう思い出しても仕方がないのだと、言い訳したり、諦めたりすると、インナーチャイルドの本当の気持ちは一度もわかってもらえないままの状態となります。
何の力もない幼い子ども時代、親の存在が一番重要だったころの様々な思いを、ありのまま吐き出すことで、過去の傷を癒していきます。
考えてもみてください。子どものころは甘えたりわがままを言ったり、無邪気にハメを外していたずらしたり....、少々怒られながらでも、思う存分自然に振舞い、子ども時代を謳歌して生きることが当たり前なのです。分別のついた大人の自分なら対処できることでも、子どもは、それを大人のように理解する必要もないし、できないのですから。
それなのに、そんな当たり前の時間を奪われてきたのです。
「今ここ」で、気持ちをごまかしたり、少しでも抑圧したままだと、次のステップには進めません。置き去りにされたこの感情の放出が中途半端だと、時間が経ったとき、また余計な信念が再燃します。
セルフセラピーでは、怒りや悲しみが強ければ、充分に怒りを発散させ、とことん泣くことが大切です。もちろんこのエネルギーを誰に迷惑をかけることなく、吐き出すために安全な空間が必要なのです。
④ 癒しの作業
本当の自分を認め、受け入れる
⇩
インナーチャイルドの本音を心ゆくまで吐き出させる
解説④
そして、充分な感情の吐露ができた後、そんなに傷ついたり、我慢していた自分を認め、自分の中に改めて受け入れる作業をします。すっと、大切にされてこなかった自分です。
目の前に、自分と全く同じ体験をしてきた同じ年齢の子どもがいると想像してもらいます。そして、その子の話を全て聴き、受け入れます。その子の話を、その子の立場でなんの解釈や批判もない気持ちで傾聴するわけです。
親の保護と存在が重要だった子ども時代は、本当の自分を抑えてインナーチャイルドで過ごすしかなかったのです。小さなからだとこころで精一杯考えた方法だったのです。「つらかったね」「頑張ったね」「寂しかったね」と慰めることです。
さらに、(可能不可能はさておき)本当は親にしてほしかったこと、言ってほしかったことを、その子に語ってもらいます。子どもにとって、理想的な親の言動はどういうものなのか。今の大人の自分が、その要望を無条件で受け入れ、イメージの中でしてあげることです。これが④癒しの作業です。
つまり、自分が理想の親として振舞ってあげる。子どものころは体験できなかった経験、得られなかったものを、「今ここ」で、今の大人のあなたが、イメージの中の子どもの自分にしてあげます。こうすることで、失われた過去が塗り替えられていきます。
この作業を、クループセラピーで行うととても有効です。他のメンバーに愛情に満ちた理想的な親の役をやってもらい、実際に言葉がけしてもらいます。
幼少期に体験がないと、実際に愛情のある言葉をどういう風に自分にかけたり、人に接したらよいのか、自然に出てこない人も多いのです。ですから、他の人の言動から学んだり、大切な人から愛情をもらう疑似体験をすることで、大きな癒しが起こるのです。
もちろん、この役目をカウンセラーが行ってもいいわけですが、この場合、転移が起こらないように充分注意する必要があります。理想的なのは本人が自分で自分のインナーチャイルドを癒す作業に、カウンセラーが補助的に手を差し伸べる形がよいでしょう。
なかなか、うまく接することができない場合はイメージの子どもを、ただ抱きしめてあげるだけでも構いません。とにかく、「大丈夫だよ。わかってるよ。」と受け入れることです。
インナーチャイルドの本当の気持ちや、認められない人、インナーチャイルドの感情を充分に吐露できない人は、なかなかこの癒しの作業ができません。つまり、インナーチャイルドのを「無視」しているか、親の味方のような態度で、今も子どもに「我慢を強いている」ため、真の自分と縛られた自分が断絶状態にあるわけです。それほど、過去の縛りが強いわけです。
⑤ 人間関係の再構築
⇩
ワンダーチャイルドを取り戻し新しい自分を作る
インナーチャイルド・セラピーとは、自分のこころの中の傷ついた内なる子どもに会いに行き、そのときの感情の解放を手伝い、癒すためのセラピーです。
アダルトチルドレンが、生きづらさを感じたり、原因不明の心身症を抱えているとき、それはインナーチャイルドが無視されたり、抑えつけられたり泣いているときです。
その存在に気づいてあげて、思いの限りを表現させてあげ、しっかりと受け止めて慰めてあげることで、少しずつインナーチャイルドをもとのワンダーチャイルドに戻してあげることです。
こうすることによって、こころのわだかまりや引っかかりが解け、今の自分の苦しみも消えていくというものです。(未完の完結の論理)
解説⑤
今の自分を苦しめる理由がわかったら、「じゃあ、今からどうする?」と自分に問いかけてみましょう。
何よりも、今の自分を大切にするために、⑤自分の信念を再検討し、不必要だと思うなら、それを修正し、新しい人生の歩み方を選び取る自由を獲得することです。
「私は大切にされる価値のある人間なんだ」「このままで充分に愛される存在なんだ」「自信を持って生きていいんだ」癒しが充分に行われた人は、自然とそういう信念が芽生えています。
この新しいメッセージこそが、これからの人生の新たな道しるべであり、自分の力で運命を開く扉の鍵になるのです。
■ インナーチャイルド・セラピーの注意点
○ このセラピーは、感情の出し入れの激しい作業でもあります。エネルギーを使う作業ですから、終えた後の疲労感も大きいはずです。ゆっくり休む時間をとる配慮が必要です。
○ セラピーの途中では、今までずっと抑え込んでいた無意識の倉庫から、様々な感情や記憶がわいてきます。
ジワリジワリと出来事や感情がよみがえり、その放出と癒しがゆっくり進んでいく人もいれば、一気に飛び出しその激変に一瞬戸惑う人もいます。
その度合いは、人によって様々ですが、回復を急ぐあまり急激な体験をすると、セラピー後に、落ち込みがひどくなる鬱状態になったり、逆に調子が上がりすぎたりすることもあります。
サポーターであるカウンセラーは、何ヶ月か様子を見ながら支援してく配慮が必要です。
また、セルフセラピーをする場合でも、こうした知識を念頭におきながら、自分ひとりでは手に負えないと思ったときには、信頼できる人やカウンセラーなどの援助を積極的に求めてください。
○ また、セラピーの途中では、家族や誰かを責める気持ちがわき、その怒りを吐き出す作業があります。どんなに罵っても、ぶつけても、構いません。
しっかり放出することは重要です。しかし、これは感情を吐露することが大切なのであって、家族を責めることが目的ではありません。後々、生身の家族を責めたり恨んだりしなくてもいいように、「今ここ」の安全な場所で、しっかり「嘆く」作業を果たすことに、大きな意味があるのです。
○ 記憶の再燃や、感情の吐露では、苦しい思いをする人も多いでしょう。しかし、それを様々な防衛機制を使って抑えてきたために、今の苦しみがあるのだとしたら、「今ここ」で、長い封印を解き、自由になる決断をするのは、その人の力と意思です。「これまでの運命にこれからも流されるのか」「今からここで自ら運命を切り開くのか」その決断を待ったり、勇気づけるのもカウンセラーの役目です。もちろん、本人に準備ができていないのに、それを強要することは、カウンセラーの傲慢になります。
しかし、本人が変化を求める強い意志があるならば、トラウマを直視しインナーチャイルドの存在を受け入れ、これまでの自分の人生を再編する作業は可能です。
ただ苦しむためにするわけではなく、自分を大切に思うからこそできる行為だということを知らせることはとても重要なことです。
何より、トラウマの再現⇒感情の吐露⇒承認と受容という癒しの作業が進むにつれ、「このままの私は愛される価値があるんだ」と思えます。
その気持ちが芽生えたとき、自分の周囲の人たちの自分への振る舞いや接し方が、変わっていくことを実感するのです。
○ 必ず、3つの作業を一連セットで行ってください。
人によって、どの部分でどれくらいの時間や期間がかかるかは千差万別です。1回で効果のある人もいれば、何ヶ月も、何年もかかる人もいます。
しかし、どれか飛ばしたり、ひとつだけで終えてしまうのはよくありません。気づき、感情を吐露し、受け入れ認め、そして未来へ再構築していきます。
トータルセットではじめて、今日まで待ち続けた過去の鎖が解放されていくのです。
アダルトチルドレンの癒し作業は、サーカスの小象に例えられることがあります。