機能不全家族
アダルト・チルドレンを生み出す家庭を「機能不全家族」と言います。どのような家族かというと家族のメンバーの安全が守られず、適切な保護が与えられず、一人一人の人格が尊重されない家族です。
あくまで、子どもの目から見て、家族として機能していない家族です。
とはいえ、誰でも自分が育った家族を「機能不全」などというレッテルを自ら張ることには、抵抗があるでしょう。
しかし、戦後の家族の8割~9割が機能不全の要素を含んでいると分析する研究家もいるほど、どこの家族にでもあることです。
自分が機能不全家族で育っているかどうかを認めることは、親を責めるものでもなく、親を傷つけるものでもなく、親と子の価値観のズレに気づくものだと思ってください。
ですから、機能不全家族だと認定するのも「あなた」ですし、機能不全家族で育ちアダルト・チルドレンであると認定するのも、「あなた」です。従って、「アダルト・チルドレン」という言葉は、「自分が自分のために使う言葉」で、今の自分を変えたいと思ったときに使う言葉です。
このことをしっかりと踏まえた上で、具体的にどんな家族が機能不全家族かチェックしてみましょう。大人としての解釈ではなく、あくまで子どもの目から見て感じた家族像で振り返ってください。「そうだなぁ」と思うところがあれば、それは子どものあなたにとっては、安心・安全でない家族なのです。
〈 機能不全家族とはこんな家族 〉
○ 身体的・性的・精神的虐待の起こっている家族
○ 仲が(夫婦間や嫁姑間)悪い家族
○ 怒りの爆発する家族
○ 愛のない冷たい家族
○ 親の期待が大き過ぎる(なかなか期待に添えない)家族
○ お金・仕事・学歴だけが重視される家族
○ 他人の目を気にする、表面だけがよい家族
○ 秘密があまりにも多い家族
○ 親と子どもの関係が逆転している家族
○ 子どもを過度に甘やかし溺愛する家族
○ アディクション(依存症)のある家族
○ 他人(兄弟姉妹も含む)と比較される家族
○ 親が病気がち、留守がちな家族
○ 情緒不安定な親のいる家族 など(西尾和美)
上記のような家族で、子どものときの自分が安心できないような緊張した時間、リラックスできない憂鬱な時間を過ごしていたら、それは機能不全家族です。
こうした機能不全家族では、暗黙のルールのようなものが子どもに伝わります。
〈 子どもに伝わる暗黙のルール 〉
○ 「感じるな」.....感情を素直に表すのはよくない
○ 「話すな」.....問題について話し合うのはよくない
○ 「信頼するな」.....人を信じても、ろくなことはない
子どもの自分が、子どもらしく振舞えないということです。
■ 泣いているインナーチャイルド
本来子どもは、誰でも子どもらしく過ごしたいはずです。子どもらしくとは、感情や興味を自由に表現し、疑問や納得できないことについて素直に話し、自分の感覚で人を信じることです。そうした本来の子どもの姿でいられる子どもをワンダーチャイルドと言います。
そして機能している家族とは、無条件で愛情が与えられ、安心できる場所であるということです。機能している家族の中にいる子どもであれば、楽しいときには喜び、必要なときは助けを求め、怖いときには泣き、寂しいときには甘えられ、不満なときは素直に訴え、疲れたときには休むことができるような、ワンダーチャイルドでいられるわけです。
しかし、それが得られない場合、子どもは子どもらしく遊んだり、甘えたり、楽しんだりする機会を奪われます。そして自分のことは後回しにして、自分の本当の気持ちをないがしろにしてまで、家族の中で別の役割を演じ始めます。
演じているわけですから、これは子どもとしては偽りの自分です。こうした子どものことをワンダーチャイルドに対して、インナーチャイルドと言います。
なぜ、子どもがわざわざインナーチャイルドとして振舞うのかわかりますか。そうしないと、親が安心してくれないからです。
親が喜んでくれないと、
親が安心してくれないと、
親がリラックスしてくれないと、
子どもは親から愛情(プラスストローク)が得られないからです。
子どもは、家族が落ち着くよう、そしてそんな家族の中で自分も少しでも落ち着けるよう、雰囲気を読んで判断して、小さな身体と頭で精一杯、自分が担うべき役割を見つけ出し、演じるのです。
例えば、家族の中に異様な緊張感を感じた子どもは、自らがスケープコードとなり様々な犠牲を背負う役を買って出ます。空気を和ませようと自らがピエロとなり冗談を言ったり、わざとまぬけな態度をとったりします(クラウン)。子供なのに、親の愚痴を聞く側に回り慰め役(プラケーター)を演じたり、親を支える世話役(イネーブラー)を買って出たりすることもあります。
あるいは、不安な状況を避けるため、片隅で息を潜め、自分の存在は忘れ去られたもののよう(ロスト・ワン)に振舞うこともあります。
また、スーパーヒーローのように良い子になりきったり、逆に悪い子を演じて、親の問題を見えなくさせる役目を果たす場合もあります。
こうして、自分の存在を一番認めてもらいたい両親や家族の中で、子どもは、痛々しいほどの苦しい努力を重ねるのです。
しかし、大人から見れば、うちの子は、空気を読まずに能天気にふざけているとか、手のかからないいい子だとか、いつも私の味方になって話を聴いてくれる優しい子だとか、勝手な評価を下します。すると子どもは、ますますその役割を強化していくのです。
そして、その仮面はいつしか長年の間に皮膚に馴染み、すでに被る必要がなくなっていても取ることを忘れ、大人になってもその仮面を被った姿が本当の自分なんだと錯覚していくのです。
こうして、子ども時代に身につけた「生きる手段」は、大人になってもあなたの中に深く根づいています。もちろん、その手段が全て、悪いものではないでしょう。それが、その後のあなたの個性や能力、特技に生かされていることもあるでしょう。
しかし、何か問題にぶつかっているときは、その手段が、逆にあなたをがんじがらめに縛る鎖となって、ありのままのあなたが自由に生きていくことを阻むのです。
例えば...
リラックスするのが苦手だったりしませんか?
自分の気持ちを素直に表現できなかったりしませんか?
他人の問題まで自分の責任として引き受けたりしていませんか?
お気楽に過ごしている人たちに腹が立ったりしていませんか?
つまり、これがインナーチャイルドを抱えたまま大人になり、生きづらさを感じているアダルト・チルドレンのプロセスと姿なのです。
Check
皆さんも、自分の家族を振り返ってみましょう。
○ 子どものころのあなたの家族は、どんな雰囲気でしたか?
○ 親がよくとる感情表現には、どんなものがありましたか?
○ 家族の中であなたは、どんな役割を担っていましたか?
○ その役割を演じることで、どんな危機を生き延びてきたのでしょうか?
注意! 子どものころの主観で理解しようとしてください。今の大人のあなたが、解釈したり、親の立場を代弁したりしてはいけません。他の誰にも回答できません。
子ども時代のあなたにしかわからない感情や考えです。
■ 2タイプのアダルト・チルドレン
アダルト・チルドレンのタイプは2つのグループに分かれます。
1. 機能不全家族の内、親に肉体的、精神的に虐待され続け、自己肯定感を全く得られない状況で育ったアダルト・チルドレン。
つまり、無条件のマイナスストロークを与えられ続けたか、あるいは、無視されるというストロークのない状態が続いた体験により、強烈な自己否定が拭えない人です。
2. 機能不全家族の内、家庭内のメンバーの仲が悪かったり、冷たい空気が漂っているなど、何か問題を抱えていて、そのため唯一子どもが、バランスの取れた大人として振舞わなければいけなかったアダルト・チルドレン。
つまり、与えられるのは条件つきのストロークで、子どもが子どもらしくいられる自我状態で言えば、FCが認められない状態が続いた人です。
アダルト・チルドレン1タイプの人は、何をやっても自分の存在を全否定されることが多い状況で育っています。それでも、その環境の中で生きていかなくてはならない子どもは、波風を立てないように自分を押し殺し、表面上は何もなく過ごす術に長けていきます。だから、周囲の感情の起伏や評価を読む能力は磨かれ、感受性はいやがおうでも強く敏感になっていきます。
しかし、いくら気を使っても、常に自分が存在していることに罪悪感や不安を抱いています。その空虚感を何か一定のもの、暴飲暴食、過度な喫煙、買い物、恋愛、仕事などで満たそうとして、依存症に発展するのです。心身ボロボロになっていくプロセスは、自分も他人もそして世の中もNOだという、自己破壊的な行為となり、長期のひきこもり、暴力、自傷行為、自殺などに走らせていくこともあります。
アダルト・チルドレン2タイプの人は、常にゴールを設定され、それをクリアすればストロークがもらえる、極論すれば、まるで調教されるサーカスの動物のように育てられています。親の意向に沿えば、大切な親が喜び、そしてプラスのストロークをくれるのです。餌をもらい身体を撫でてもらえる犬と同じように。
その内、指示されなくても親が喜ぶであろう姿を自ら察し、それに向かって、どんなに苦しくても頑張ります。きっとこの条件を乗り越えれば喜んでくれるだろう、安心してくれるだろうと。そしていつしか、親の願望が自分の願望だと錯覚さえしていきます。
親から見れば聞き分けがよく、成績や面倒見のよい、よくできた手のかからない子なのです。子どもなのに、一番家族のことに神経を配る大人のようです。
忍耐強く頑張って、自分のことは後回しにしてまで苦しまなければ、自分は認められないという信念は、その後の人生でその信念を確認できるような環境を無意識に引き寄せるようになっていきます。共依存症者の生い立ちがここにあるのです。
さて、アダルト・チルドレンになるプロセスを図にすると次のようになります。
こうして、2つのタイプのアダルト・チルドレンは、機能不全家族に縛られる必要がなくなった大人になっても、身につけた仮面や演技のまま、共依存や依存という症状に発展させていきます。結局、子どものときの苦しみを幾重にも誇大化させながら生きていくのです。
■ 今の問題は氷山の一角
アダルト・チルドレンはどちらのタイプにしても、機能不全家族という環境の中で、ありのままの自分を受け入れられる場所を知ることがなかったのです。子どものころは、無条件に自分の存在を否定される。あるいは条件つきでないと認められない体験は、自分はダメなんだという自己否定感、自分は価値がなく何もできないという自己不全感を抱かせます。本来の自分は存在してはならないという「見捨てられた不安」は、こころの底にできた暗闇のように、得体の知れぬ恐怖をもたらし続けます。
そしてそれは、深い傷、つまりトラウマとなり、ありのままの自分=ワンダーチャイルドの存在を押し殺してしまうのです。代わりにその場を何とかしのぐことのできる、あるいは、周囲にとって都合のよい、偽りの自分=インナーチャイルドに据え代えます。
しかし、所詮偽りは偽りです。代理で据えた自分がこころから安心できるわけでもなく、いつも「何か違う...。」「何かが足りない。」という空虚感につきまとわれます。
そして、その虚しさを埋めるため、大人になった今でも何らかの生きづらさに悩まされるのです。それは、依存症や共依存症に代表されますが、他の様々な心身症や精神障害だけでなく、慢性の肩こりや腰痛、腹痛などその人の弱いところに出る身体症状にも表れると言われています。
この構図をアイスバーグモデル(氷山の一角)と言います。現在、起きている様々な症状、問題などは、氷山の一角であって、その氷のずっと奥深い海底には、機能不全家族で感じ続けてきた「見捨てられた不安」が眠っているのです。
今のあなたが、もしその氷山の一角である様々な生きづらさに悩まされ、物理的に酷い症状に苦しんでいるならば、もちろん、病院で適切な処置をしてもらってください。酷い下痢に襲われているのに、精神力でそれを止めることなんてできないのと同じです。薬などの力を借りて症状の緩和を手伝ってもらうことは大事なことです。
しかし、同時に根源的な克服が必要だと感じるならば、カウンセラーや臨床心理士などの専門家の援助を得ながら、ゆっくり自分の癒しの作業を行ってください。
心身症や、トラブルが続き、「どうして?」「なぜ?」という疑問符ばかりが頭を堂々巡りする。どんどん負のスパイラルから抜けられなくなる。何度も同じような症状やトラブルにぶつかる。そして心身疲れ果ててしまい、症状や問題は一時収まってもまた時間を置いて襲ってくる感覚。
そんなときは、応急手当的な処置や、トカゲのしっぽきり的な問題解決を繰り返していても、あなたの貴重な人生を混沌とさせるだけでなく、あなたの次の世代の人生にまで影響を及ぼすようになるのです。
あなたの傷が本当に癒されなければ、周囲の人、特に自分より弱い立場の人間や、お年寄り、子ども、そして、親しい人たちを、結果的に無意識に傷つけることになるのです。あなた自身はもちろん、あなたが受けた傷と同じ思いを、何の責任もない大切な人たちに背負わせたくないと思うのは、共通の願いでしょう。
■ 「今ここ」で決意
「今ここ」で何かに気づかれたら、あなたの世代でその負の連鎖を断ち切る決意を「今ここ」でしてください。アダルト・チルドレンとは「現在の自分の生きづらさが、親との関係に起因すると認めた人」です。つまり、「今ここ」で「私が」行う決断でもあります。
あなたには、「今ここ」から自身の手で、あなたの人生を選び、幸せになる「力」と「自由」があるのですから。